賃貸市場の変化 — 家賃上昇トレンドと物件の二極化が鮮明に
家賃上昇が加速 — 消費者物価指数に見る構造的変化
総務省が公表する消費者物価指数(東京都区部・民営家賃)は、2025年を通じて明確な加速傾向を示しました。 1月時点で前年比+0.9%だった上昇率は、4月に+1.8%、12月には+2.0%に達しています。 日本の民営家賃は長年にわたり横ばいからわずかな上昇にとどまっていましたが、 2025年後半からは物価全体のインフレを上回るペースで推移する局面が出てきています。
この家賃上昇は一時的な現象ではなく、複数の構造的要因が重なった結果です。 建築資材費と人件費の高騰により新築賃貸住宅の供給コストが上昇し、 それが既存物件の家賃相場にも波及しています。 加えて、都市部への人口回帰やインバウンド需要の回復も需給をタイトにする方向に作用しています。
不動産投資の観点では、家賃上昇はNOI(営業純利益)の改善を通じて キャッシュフローにプラスの影響をもたらします。 ただし、すべてのエリア・物件タイプで均等に恩恵を受けられるわけではありません。 以下で見るように、上昇率にはエリアと物件タイプによって大きな差があります。
エリア別・物件タイプ別の家賃上昇率
アットホームの調査データによると、賃貸住宅の募集家賃は全国的に上昇していますが、 特に顕著な上昇を見せているのが福岡市、仙台市、東京23区です。 以下の表は、2025年時点で上昇率が大きかったエリア・物件タイプの組み合わせをまとめたものです。
| エリア | 物件タイプ | 面積帯 | 前年比上昇率 |
|---|---|---|---|
| 福岡市 | マンション | 30㎡以下 | +14.1% |
| 仙台市 | アパート | 50〜70㎡ | +12.8% |
| 東京23区 | マンション | 30〜50㎡ | +12.0% |
| 東京23区 | マンション(単身向け) | 全面積帯 | +11.1% |
| 東京23区 | マンション | 50〜70㎡ | +10.0% |
出典:アットホーム「全国主要都市の賃貸マンション・アパート募集家賃動向」。 首都圏の単身者向け賃貸は全エリアで2015年以来の最高値を更新しており、 東京23区のマンション50〜70㎡帯では月額251,446円(前年比+10.0%)に達しています。
首都圏 単身向け:全エリアで2015年以降の最高値を更新
注目すべきは、東京23区・東京都下・福岡市では全面積帯で上昇が確認されている点です。 これは特定のセグメントだけでなく、エリア全体として賃貸需要が強いことを示しています。エリア別利回りガイドで各地域の利回り水準と合わせて確認すると、 投資判断の精度が高まります。
空室率の動向 — 需給タイト化が進む首都圏
総務省の2023年住宅・土地統計調査(最新確報)によると、 賃貸住宅の空室率は全国では18%台後半と依然として高い水準にあります。 しかし首都圏に限れば、神奈川県9.8%(前回比-1.0ポイント)、 埼玉県9.4%(同-0.8ポイント)と明確な改善傾向を示しています。
| エリア | 空室率 | 前回比 | 傾向 |
|---|---|---|---|
| 全国 | 18%台後半 | - | 高止まり |
| 神奈川県 | 9.8% | -1.0pt | 改善 |
| 埼玉県 | 9.4% | -0.8pt | 改善 |
全国平均と首都圏のギャップが示しているのは、賃貸市場における地域間格差の拡大です。 人口が流入し続ける都市圏では空室率が低下し、家賃が上昇する好循環が生まれている一方、 人口減少が進む地方では空室が埋まりにくくなっています。 投資対象エリアの選定に際しては、空室率のトレンドを含むリスク統計データの読み方を把握しておくことが重要です。
物件の二極化 — 築浅・好立地に集中する需要
家賃上昇と空室率のデータからは、もう一つの重要なトレンドが浮かび上がります。 それは物件の二極化です。LIFULL HOME'Sのデータによれば、 人気エリアの築浅物件は募集開始から数時間で申込みが入るケースが珍しくない一方、 築古・駅遠の物件では空室期間が長期化する傾向が強まっています。
この二極化は、入居者の選択基準が厳しくなっていることを反映しています。 家賃が上昇する中で入居者はより高い居住品質を求めるようになり、 設備が古い物件や利便性の低い物件は選ばれにくくなっています。 結果として、同じエリア内でも物件のスペックによって稼働率に大きな差が生じるようになりました。
投資家にとっての示唆は明確です。利回りの数字だけで判断するのではなく、 対象物件が「入居者に選ばれ続ける物件かどうか」を見極める視点が必要です。 築年数・駅距離・設備水準を総合的に評価し、空室リスクを織り込んだ 実質的な収支を分析することが不可欠です。利回りの基本と計算方法を理解したうえで、 表面利回りと実質利回りの差がどこから生じるかを把握しておきましょう。
今後の見通し — 業界DIは上昇継続を予測
全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)の不動産DI調査によると、 3か月後の賃料見通しについて「上昇する」と回答した割合は、 近畿圏で34.4%、関東圏で31.5%に達しています。 賃料の先高観が広がっていることは、当面の家賃上昇トレンドが続く可能性を示唆しています。
ただし、家賃上昇がそのまま投資収益の改善に直結するとは限りません。 建築費・修繕費の上昇や、金利上昇による借入コストの増加が同時に進行しているためです。 野村不動産ソリューションズのデータでも、投資用不動産の取引利回りは 家賃上昇以上に物件価格が上昇したことで低下傾向にあります。
家賃上昇の恩恵を投資リターンに確実に結びつけるには、 収入増だけでなくコスト構造全体を見渡したシミュレーションが必要です。 家賃上昇率・空室率・経費率・金利の各パラメータを変動させた感応度分析を行うことで、 どの変数がキャッシュフローに最も影響するかを定量的に把握できます。
投資判断への活かし方
今回のデータから導かれる投資上のポイントを整理します。
1. 家賃上昇率をシミュレーションに反映する
これまで家賃を横ばいで計算していた投資家は、年1〜2%程度の上昇シナリオも含めた 複数パターンのシミュレーションを行うべきです。 ただし上昇が永続する前提は危険であり、保守的なベースケースと 楽観的なアップサイドケースを分けて検討してください。
2. エリア選定では空室率のトレンドを重視する
表面利回りが高くても空室率が上昇傾向にあるエリアでは、 実質的な収益はシミュレーションどおりにならないリスクがあります。 総務省の住宅・土地統計調査やLIFULL HOME'Sの空室率データを活用し、 需給動向を数値で確認してください。
3. 二極化時代の物件選定基準を持つ
築浅・好立地の物件は安定した稼働が見込めますが、利回りは低くなりがちです。 一方、築古物件はリノベーションによる競争力回復の余地がありますが、 費用対効果の見極めが重要です。物件タイプごとにリスク・リターンのバランスが異なるため、 自身の投資方針に合った基準で判断することが求められます。
まとめ
2025年の賃貸市場は、消費者物価指数・募集家賃ともに明確な上昇トレンドを示しました。 特に東京23区・福岡市・仙台市では二桁に迫る上昇率を記録しています。 一方で、物件の二極化が鮮明になり、築古・駅遠物件の空室リスクは高まっています。 家賃上昇を投資収益に結びつけるには、エリア・物件タイプを見極めたうえで、 空室率・経費・金利を含む多面的なシミュレーションに基づく判断が不可欠です。 情報源:総務省消費者物価指数、アットホーム募集家賃動向、LIFULL HOME'S、野村不動産ソリューションズ、全宅連不動産DI調査。
実際の物件データで試してみましょう
空室率を考慮した利回りを計算する