人口減少でも賃貸需要が堅調な理由 — 世帯構造の変化と外国人増加のインパクト
日本の人口減少 — 数字で見る現状と将来推計
総務省統計局の発表によると、2025年10月時点の日本の総人口は1億2,321万9千人で、 前年から58万3千人(-0.47%)減少しました。人口減少は加速しており、 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、2053年に日本の総人口は初めて1億人を下回るとされています。
この数字だけを見れば、不動産投資、とりわけ賃貸経営の将来は暗いように思えます。 「人口が減れば入居者も減る」という単純なロジックは直感的に正しく聞こえるからです。 しかし、賃貸需要を決定づけるのは「人口」ではなく「世帯数」と「世帯構造」です。 ここに大きなギャップがあります。
年間減少数:-58万3千人(-0.47%)
1億人割れ予測:2053年(国立社会保障・人口問題研究所推計)
世帯数はまだ増える — 2030年にピークの5,773万世帯
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計」によると、 総世帯数は2030年に5,773万でピークを迎え、その後緩やかに減少に転じます。 つまり、人口は減り続けているにもかかわらず、世帯数はまだ増加中です。 この一見矛盾する現象の背景にあるのが「世帯の細分化」です。
平均世帯人員は2020年の2.21人から2050年には1.92人まで縮小すると推計されています。 一つの住居に住む人数が減ることで、同じ人口でもより多くの住戸が必要になるという構造的な変化が起きているのです。 賃貸住宅の需要は「何人いるか」ではなく「何世帯あるか」で決まるため、 人口減少と賃貸需要の減少は必ずしもイコールではありません。
単独世帯の急増 — 賃貸需要の最大のドライバー
世帯構造の変化のなかでも、賃貸市場に最も大きなインパクトを与えているのが単独世帯(一人暮らし世帯)の増加です。 2020年時点で単独世帯は2,115万世帯(全世帯の38.0%)でしたが、 2036年には2,453万世帯でピークに達し、2050年でも2,330万世帯(44.3%)と高水準を維持する見通しです。
| 年 | 単独世帯数 | 全世帯に占める割合 | 平均世帯人員 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 2,115万世帯 | 38.0% | 2.21人 |
| 2030年 | 約2,400万世帯 | 約42% | 約2.05人 |
| 2036年(ピーク) | 2,453万世帯 | 約43% | 約2.00人 |
| 2050年 | 2,330万世帯 | 44.3% | 1.92人 |
特に重要なのは、大都市部の単独世帯の約7割以上が賃貸住宅に居住しているという事実です。 単独世帯は持ち家志向が低く、賃貸を選択する傾向が強い。 この層が増え続けることは、都市部の賃貸需要を構造的に下支えする要因となります。
単独世帯の増加を後押ししている要因は複数あります。 男性の生涯未婚率は25%を超え、女性も15%を超えるまで上昇しました。 未婚化・晩婚化に加え、離婚後の単独世帯化、そして高齢者の配偶者喪失による単独化も進んでいます。 これらはいずれも短期的なトレンドではなく、長期的な社会構造の変化です。
若年層の持ち家離れ — 30代の3人に2人が賃貸
賃貸需要を支えるもう一つの構造変化が、若年層の持ち家率低下です。 30代の持ち家率は1983年の53.0%から2013年には38.6%まで低下しました。 かつては30代で住宅を購入するのが一般的でしたが、現在では30代の約3人に2人が賃貸住まいです。
この背景には、非正規雇用の増加による所得の不安定化、住宅価格の高騰、 そしてライフスタイルの変化があります。転職が一般化し、 一つの場所に長期間住み続けることを前提としないキャリア設計を選ぶ若年層が増えています。 これは住宅購入の先送りにつながり、結果として賃貸居住期間が長期化しています。
投資家にとっては、若年単身者向けの1K・1LDKの需要が構造的に底堅いことを意味します。 特に駅徒歩10分以内の都市部物件は、この層からの安定した需要が見込めます。 エリアごとの利回り特性についてはエリア別利回りガイドで詳しく解説しています。
在留外国人の急増 — 新たな賃貸需要層の台頭
人口減少を部分的に補う存在として注目すべきが、在留外国人の増加です。 出入国在留管理庁の発表によると、2024年末時点の在留外国人は376万8,977人で、 前年比+10.5%と大幅に増加しました。3年連続で過去最多を更新しています。 さらに2025年6月末には395万6,619人(+5.0%)に達しており、400万人の大台が目前です。
| 国籍 | 在留者数 |
|---|---|
| 中国 | 約87万人 |
| ベトナム | 約63万人 |
| 韓国 | 約40万人 |
都道府県別では、東京都が約73万人(在留外国人全体の19.6%)と突出しており、 大阪府と愛知県がそれぞれ約33万人で続きます。 外国人居住者の多くは賃貸住宅に居住しており、特に都市部のワンルーム・1Kタイプの需要を押し上げています。
技能実習制度から育成就労制度への移行や、特定技能の受け入れ拡大により、 今後も在留外国人は増加基調が続くと見込まれています。 外国人入居者を受け入れる体制(多言語対応、保証会社の活用等)を整えることは、 空室リスクの低減策として合理的な選択肢です。
空き家率の二極化 — 全国13.8%、東京はわずか2.6%
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家率は13.8%と過去最高を更新しました。 しかし、この数字は地域差が極めて大きいことに注意が必要です。
| エリア | 空き家率 | 備考 |
|---|---|---|
| 全国平均 | 13.8% | 過去最高 |
| 東京都 | 2.6% | 全国最低 |
| 和歌山県・徳島県 | 21.2% | 全国最高 |
東京都の空き家率はわずか2.6%で全国最低です。一方、和歌山県と徳島県は21.2%で全国最高となっており、 その差は約8倍にもなります。「空き家が増えている」という全国平均の数字をもって 都市部の賃貸投資が危険だと判断するのは、データの読み誤りです。
空き家問題は本質的に「地方の過疎化問題」であり、人口流入が続く都市部では むしろ住宅供給が追いついていないエリアすら存在します。 投資判断においては、全国平均ではなくエリア単位のデータに基づくことが不可欠です。不動産投資のリスク統計データで、 エリアごとの空室率や人口動態をさらに詳しく確認できます。
高齢者の賃貸需要 — 入居拒否の壁と制度変化
高齢単独世帯の増加も賃貸市場に影響を与えています。 配偶者を亡くした高齢者や、施設ではなく自立した生活を望む高齢者が賃貸住宅を求めるケースが増えていますが、 R65不動産の調査によると、高齢者の26.8%が年齢を理由に入居を拒否された経験があると回答しています。
孤独死リスクや連帯保証人の問題から、高齢者の入居に慎重な大家は少なくありません。 しかし、見守りサービスや家賃保証会社の活用により、これらのリスクを管理しつつ 高齢者を入居対象に含めることは、空室対策として有効な手段です。 高齢入居者は長期間住み続ける傾向があり、頻繁な入退去に伴う原状回復費や空室期間のコストを抑えられるメリットもあります。
投資判断への示唆 — 人口減少時代のエリア選定
以上のデータを総合すると、人口減少が賃貸市場に与える影響は一律ではなく、 エリアと物件タイプによって大きく異なることが分かります。 投資判断においては以下の3点を軸にエリアを選定することが重要です。
1. 世帯数の推移を確認する
人口が減少していても、世帯数が増加または横ばいのエリアであれば、賃貸需要は維持されます。 自治体の統計データや国勢調査の結果を確認し、世帯数ベースで需要を判断してください。
2. 外国人居住者の動向を把握する
在留外国人が集中するエリアでは、日本人の人口減少を外国人の増加が補う構造が見られます。 東京・大阪・愛知など外国人集住地域は、賃貸需要の底上げ効果が期待できます。
3. 空き家率は全国平均ではなくエリア別で見る
全国13.8%という空き家率は、都市部と地方の格差を覆い隠しています。 投資対象エリアの実際の空き家率を確認し、供給過剰になっていないかを検証することが不可欠です。市場データの読み方ガイドを参考に、 データに基づいた投資判断を行いましょう。
まとめ
日本の総人口は年間約58万人ペースで減少していますが、世帯数は2030年まで増加を続け、 単独世帯は2050年でも全世帯の44.3%を占める見通しです。 若年層の持ち家率低下、在留外国人の急増(2025年6月末で約396万人)、 高齢単独世帯の増加といった構造変化が、都市部を中心に賃貸需要を下支えしています。 一方、空き家率は東京2.6%に対し地方では21%超と、地域間格差は拡大する一方です。 人口減少時代の賃貸投資では、「全国平均」ではなくエリア単位の世帯動態・外国人動向・空き家率を 精査することが、投資成否を分ける鍵となります。
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