表面利回りと実質利回りの違い
最終更新日: 2026年4月3日(本記事の数値は同日時点の税率・金利を基準としています)
本ガイドは不動産投資の基礎知識を提供する教育目的のコンテンツです。実際の投資判断には現地確認・市場調査・専門家(宅建士・税理士・FP等)への相談が必須です。
不動産投資で最初に目にする数字が「利回り」です。 しかし、物件広告に掲載される利回りの多くは「表面利回り」であり、 実際の収益性を正確に反映していません。 投資判断には「実質利回り」の理解が不可欠です。
たとえば「表面利回り10%」と宣伝される物件でも、空室損や運営経費を差し引くと実質利回りは4〜5%ということは珍しくありません。 表面利回りだけを信じて購入した結果、想定していた収益が得られず資金繰りが悪化するケースは後を絶ちません。 利回りの「中身」を正しく理解することが、不動産投資の第一歩です。
利回りの種類と計算式
不動産投資で使われる利回りには複数の種類があり、それぞれ計算方法と意味が異なります。
表面利回り(グロス利回り)
表面利回りは経費を一切考慮しない最もシンプルな指標です。 物件を比較する際の第一段階のスクリーニングには便利ですが、 実際の手取り収入とは大きく乖離します。 不動産ポータルサイトや物件チラシに記載されている「利回り」は、ほぼすべてこの表面利回りです。
実質利回り(ネット利回り)
EGI(実効総収入)は、年間家賃から空室損を差し引いた実際に見込める家賃収入です。 分母には物件価格に加え、仲介手数料・登記費用・不動産取得税などの購入諸経費も含めます。 実質利回りは「実際に手元に残る収益」を反映するため、投資判断にはこちらを使用します。
NOI利回り(キャップレート)
NOI利回り(Cap Rate)は物件の収益力を示す指標で、購入諸経費は分母に含めません。 プロの不動産投資家や金融機関が物件評価に使う標準的な指標です。レバレッジ効果の判定(Cap Rate vs K%)にも使用されます。
どれくらい差が出るのか?
同じ条件の物件で、表面利回りと実質利回りを比較してみましょう。
- 物件価格:2,000万円(購入諸経費140万円、計2,140万円)
- 月額家賃:13.3万円(年間160万円、表面利回り8.0%)
- 空室率:8%(実効総収入147.2万円)
年間運営経費の内訳
| 項目 | 年額 | 目安 |
|---|---|---|
| 管理委託費 | 7.4万円 | EGI(実効収入)の5%が一般的 |
| 修繕積立金 | 12万円 | 区分マンションで月1万円前後 |
| 管理費 | 12万円 | マンション管理組合への支払い |
| 固定資産税 | 14万円 | 物件価格の0.5〜1.0%程度 |
| 火災保険 | 1万円 | 火災・地震保険の年額目安 |
| 合計 | 46.4万円 |
NOI = 147.2万円 − 46.4万円 = 100.8万円
実質利回り = 100.8 ÷ 2,140 × 100 = 4.71%
NOI利回り = 100.8 ÷ 2,000 × 100 = 5.04%
表面利回り8.0% → 実質利回り4.71%(約3.3ポイントの差)
物件タイプ別の利回り差
表面利回りと実質利回りの差は物件タイプによって大きく異なります。 同じ表面利回り8%でも、運営経費の構造が違えば実質利回りは全く違う結果になります。
| 物件タイプ | 表面利回り | 想定空室率 | 経費率 | 実質利回り目安 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 都心区分ワンルーム | 4.5% | 5% | 25〜30% | 2.5〜3.0% | −1.5〜2.0pt |
| 郊外区分ファミリー | 6.0% | 8% | 25〜30% | 3.3〜3.8% | −2.2〜2.7pt |
| 地方一棟アパート(木造) | 10.0% | 10〜15% | 15〜20% | 5.5〜7.0% | −3.0〜4.5pt |
| 一棟RCマンション | 7.0% | 8% | 20〜25% | 3.8〜4.5% | −2.5〜3.2pt |
| 戸建て賃貸 | 8.0% | 5〜10% | 10〜15% | 5.5〜6.5% | −1.5〜2.5pt |
区分マンションは管理費・修繕積立金の負担が大きいため、表面利回りと実質利回りの差が特に顕著です。 一棟アパートや戸建て賃貸は経費率が低い傾向にありますが、空室率の変動幅が大きい点に注意が必要です。
運営経費の内訳と相場
実質利回りを正確に計算するために、各経費項目の相場を把握しておきましょう。 物件タイプや地域によって経費は異なりますが、以下が一般的な目安です。
| 経費項目 | 区分マンション | 一棟アパート | 戸建て賃貸 |
|---|---|---|---|
| 管理委託費 | EGIの3〜5% | EGIの5〜8% | EGIの5〜10% |
| 管理費・修繕積立金 | 月1.5〜4万円 | なし(自主管理) | なし |
| 修繕費(実費) | 上記に含む | 家賃の5〜10% | 家賃の5〜10% |
| 固定資産税・都市計画税 | 物件価格の0.5〜1.0% | 土地建物で年10〜30万円 | 年5〜15万円 |
| 火災・地震保険 | 年0.5〜2万円 | 年3〜10万円 | 年1〜3万円 |
| 入居者募集費用(AD等) | 退去時に家賃1〜2ヶ月 | 退去時に家賃1〜2ヶ月 | 退去時に家賃1〜2ヶ月 |
特に見落とされやすいのが「入居者募集費用(AD:広告費)」です。 入居者の入れ替わりごとに家賃1〜2ヶ月分のコストが発生するため、 回転率が高い物件では年間で大きな負担になります。 たとえば月額家賃7万円の物件で年1回の入退去があれば、ADだけで年間7〜14万円のコストです。
ケーススタディ:3つの物件を実質利回りで比較する
表面利回りだけでは投資判断が歪むことを、具体的な3物件の比較で確認しましょう。
物件A:都心区分ワンルーム
物件価格:2,500万円 / 購入諸経費:175万円 / 月額家賃:9.4万円
表面利回り = 112.8万円 ÷ 2,500万円 = 4.51%
空室率:3% → EGI = 109.4万円
運営経費:管理費・修繕積立金24万円 + 管理委託費5.5万円 + 固定資産税15万円 + 保険1万円 = 45.5万円
NOI = 109.4万円 − 45.5万円 = 63.9万円
実質利回り = 63.9 ÷ 2,675 × 100 = 2.39%
物件B:郊外一棟アパート(木造6戸)
物件価格:3,000万円 / 購入諸経費:210万円 / 月額家賃:5万円×6戸 = 30万円
表面利回り = 360万円 ÷ 3,000万円 = 12.0%
空室率:12% → EGI = 316.8万円
運営経費:管理委託費25.3万円 + 修繕費15万円 + 固定資産税18万円 + 保険5万円 = 63.3万円
NOI = 316.8万円 − 63.3万円 = 253.5万円
実質利回り = 253.5 ÷ 3,210 × 100 = 7.90%
物件C:地方戸建て賃貸
物件価格:500万円 / 購入諸経費:50万円 / 月額家賃:5万円
表面利回り = 60万円 ÷ 500万円 = 12.0%
空室率:10% → EGI = 54万円
運営経費:管理委託費5.4万円 + 修繕費5万円 + 固定資産税5万円 + 保険1.5万円 = 16.9万円
NOI = 54万円 − 16.9万円 = 37.1万円
実質利回り = 37.1 ÷ 550 × 100 = 6.75%
比較結果
| 物件 | 表面利回り | 実質利回り | 差 |
|---|---|---|---|
| A:都心区分ワンルーム | 4.51% | 2.39% | −2.12pt |
| B:郊外一棟アパート | 12.0% | 7.90% | −4.10pt |
| C:地方戸建て賃貸 | 12.0% | 6.75% | −5.25pt |
物件BとCは同じ表面利回り12%ですが、実質利回りでは1.15ポイントの差があります。 物件Cは空室時に収入がゼロになるリスクもあるため、利回りの数字だけでなくリスク特性も考慮すべきです。
表面利回りだけで判断する危険性
表面利回りが同じ8%の物件でも、以下の要因で実質利回りは大きく変わります。
- 空室率:都心ワンルームなら3〜5%程度だが、地方や築古物件では15%以上もあり得る
- 管理費・修繕積立金:築年数が古いほど修繕積立金が高額になる傾向。築30年超のマンションでは月額2〜4万円に達することも
- 購入諸経費:新築と中古で仲介手数料の有無が変わる。中古では物件価格の6〜8%が目安
- 固定資産税:立地や構造により大きく異なる。RC造は木造より固定資産税が高い
- 経年劣化:築年数が進むほど修繕費が増加し、家賃も下落傾向。初年度の利回りが維持される保証はない
利回りの相場感
投資判断の参考として、2026年時点の利回りの相場感を把握しておきましょう。 ただし、市況は常に変動するため、あくまで目安として捉えてください。
| エリア・物件タイプ | 表面利回り相場 | 備考 |
|---|---|---|
| 東京23区 区分ワンルーム | 3.5〜5.0% | 資産価値維持が期待できるが低利回り |
| 東京23区 一棟マンション | 4.5〜6.0% | 物件価格が高く参入ハードルが高い |
| 首都圏郊外 一棟アパート | 7.0〜10.0% | 空室リスクとのバランスが重要 |
| 地方主要都市 一棟アパート | 9.0〜14.0% | 高利回りだが人口減少・空室リスクに注意 |
よくある間違い・注意点
- 「高利回り=良い物件」ではない:利回りが高い物件は、空室リスク・修繕リスク・流動性リスクが高い可能性があります。 「なぜ高利回りなのか」の理由を必ず確認しましょう。
- 新築プレミアム家賃を前提にしない:新築時は相場より高い家賃が取れますが、入居者の入れ替わり時に家賃が下落することが一般的です。 5〜10年後の想定家賃で利回りを計算しましょう。
- 満室想定の利回りを鵜呑みにしない:空室が埋まらないまま放置されている物件を「想定家賃」で利回り計算している広告もあります。 現況の入居状況を確認することが重要です。
- 経費を過小見積もりしない:特に築古物件では、予想外の修繕費が発生する可能性があります。 修繕費の見積もりに余裕を持たせましょう。
他の指標との関連
利回りは物件の収益力を示す基本指標ですが、投資判断には以下の指標との組み合わせが不可欠です。
- DSCR:利回りが高くても、借入条件次第ではDSCRが1.0を下回る可能性がある。利回りとDSCRは必ずセットで確認
- IRR:利回りは単年の指標、IRRは売却まで含めた通期の指標。高利回り物件でも出口で損をすればIRRは低くなる
- レバレッジ:NOI利回り(Cap Rate)とK%(ローン定数)の比較で、借入が有利か不利かを判断できる
- 出口戦略:出口時のCap Rateの想定が売却価格に直結する。購入時と出口のCap Rate差がIRRを左右する
まとめ
- 表面利回りは物件スクリーニング用。投資判断には必ず実質利回りを計算する
- 表面利回りと実質利回りの差は2〜5ポイント。物件タイプにより差の大きさが異なる
- 運営経費の見積もりが実質利回りの精度を決める。管理費・修繕積立金・固定資産税・AD費用を漏れなく計上する
- 高利回り物件は「なぜ高いのか」を疑う。空室リスク・修繕リスク・立地リスクの裏返しであることが多い
- 利回り単独では投資判断できない。DSCR・IRR・レバレッジなど複数指標と組み合わせて総合判断する
表面利回りはあくまで物件の「入口」として参考にし、 必ず実質利回りを計算したうえで投資判断を行いましょう。
実際の物件データで試してみましょう
実質利回りを計算してみる